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採用・人材

定着率を上げるための評価・育成の考え方

結論から言うと、定着率を上げるために必要なのは、大掛かりな評価制度を作ることではありません。個人店が大手企業の等級制度をそのまま縮小して持ち込むと、たいてい運用が止まります。まず整えるべきは、①できることを一覧にする(スキルマップ)、②昇給の条件を先に文章にする、③振り返りの頻度を決めて固定する、という3点を仕組みとして持つことです。

なぜ辞めるのか

厚生労働省「令和6年度能力開発基本調査」(常用労働者30人以上の企業・事業所が対象)によると、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は79.9%にのぼります。内訳は「指導する人材が不足している」(59.5%)が最も高く、次いで「人材を育成しても辞めてしまう」(54.7%)、「人材育成を行う時間がない」(47.4%)と続きます。30人以上を雇う企業でさえ、教える人がいない・育てても辞められる・時間が取れないという3つの壁に直面しているのですから、体制がより薄い個人店で同じ壁が高くなることは想像に難くありません。

さらに、計画的なOJTを実施している事業所は64.7%にとどまり、内訳は「正社員のみ実施」が37.7%と最多で、「正社員以外のみ実施」はわずか3.6%です(同調査)。教える内容や順番が特定の社員任せになっていれば、「誰につくか」で新人の育ち方が変わり、不公平感や成長の見通しのなさにつながります。辞める理由は給与だけでなく、評価の不透明さ・成長の見通しのなさ・教える人による差が絡み合っていると見るべきです。飲食業界の入職率・離職率の高さは「飲食業界の採用が難しい理由と、個人店にできる工夫」もあわせてご覧ください。

個人店で評価制度を作るときの落とし穴

「評価制度を作ろう」となったとき、大手企業の等級制度や評価シートを参考にする人は多いですが、そのまま縮小して持ち込むと運用が止まりがちです。同調査では、事業内の職業能力開発計画を「作成している」企業は全体の20.0%にとどまり、企業規模別でも「30~49人」で13.3%、「1,000人以上」でも45.4%と、大企業でさえ半数に届きません。規模が小さいほど、項目の多い制度は「作ったが運用されない」書類になりがちです。

個人店にありがちな落とし穴は次の2つです。

  • 等級や評価項目を細かく作り込みすぎて、評価する側(店主自身)の負担が運用可能な範囲を超える
  • 評価の結果が賃金や役割にどうつながるかを決めないまま、面談だけを形にする

同調査では、職業能力評価を行う事業所のうち、評価を「人事考課(賞与、給与、昇格・降格等)の判断基準」として使う事業所が85.8%と最多です。評価は処遇と切り離さないことが前提であり、個人店でも「評価を何に使うか」を先に決めておく必要があります。

最小構成で作る3点

個人店が最初に整えるべきは、精密な評価制度ではなく、次の3点です。

項目やること頻度の目安
①スキルマップ業務ごとに「できる」「一部できる」「できない」の3段階で一覧化する半年に1回更新
②昇給の条件何ができるようになったら、いくら・どの役割に上がるかを事前に文章で決める入社時に提示、年1回見直し
③振り返りの頻度短時間でよいので、面談の頻度を固定し必ず実施する月1回・15分程度

①のスキルマップは、育成の進み具合を見える化する道具であると同時に、「誰が何を教えられるか」の一覧にもなります。②の昇給条件は、面談の場で初めて考えるのではなく事前に文章化しておくことが重要です。同調査でも、能力開発の成果を処遇に反映させる事業所のうち「賃金の引上げ」への反映が正社員で87.0%と最多で、評価と賃金を結びつける前提を先に文章にしておくと後の説明がしやすくなります。③の振り返りは、頻度を決めて固定することが目的であり、内容を凝る必要はありません。

育成の属人化を防ぐ

「人材を育成しても辞めてしまう」(54.7%)という問題は、裏を返せば育成の中身が特定の人に依存していることの表れです。個人店では、誰が・いつまでに・何を教えるかをOJT計画として先に決めておくことが有効です。計画的なOJTを実施している事業所でも「正社員のみ」実施が37.7%と多く、パート・アルバイトへの計画的な育成は後回しにされがちです(同調査)。個人店では逆にパート・アルバイトが現場の主力であることが多く、ここへの育成計画の有無が定着率に直結します。

育成計画は、シフト管理と切り離さずに考えることも重要です。誰が・いつ・何を教えるかを決めても、シフトが噛み合わなければ実行できません。この点は「小規模店舗のシフト管理」で触れた属人化させない仕組みづくりとも重なります。また「最初の1人をどう選ぶか」で述べた通り、初期採用者がその後の基準づくりに巻き込まれる立場になることも踏まえ、育成の型は仮のものでよいので早い段階で作っておくべきです。

やらなくていいこと

個人店には荷が重い取り組みもあります。同調査では、キャリアコンサルティングを行う事業所のうち「行う上で問題がある」とする事業所が正社員で69.2%にのぼり、内訳は「相談を行っても効果が見えにくい」(41.4%)、「相談件数が少ない」(40.6%)が上位です。制度を整えた30人以上の事業所でもこの状態である以上、個人店がいきなり同じ仕組みを持ち込んでも機能しにくいと考えるのが妥当です。

同様に、評価項目を点数化して精緻に作り込むことや、年1回の大掛かりな評価面談を型どおりに実施することも、個人店には重すぎる取り組みです。技能検定を知っているとした事業所のうち、技能検定に問題を感じる事業所は69.7%(宿泊業・飲食サービス業では73.2%)にのぼります(同調査)。個人店の段階では、精緻な制度を目指すより①②③の最小構成を確実に回すことを優先すべきです。

私自身の経験から

Grace(2026年10月開業予定の愛知県のパティスリー)の開業準備でも、OJT計画とスキルマップの運用ルールを書式として整備しています。評価の中身(等級や基準の具体的な数値)は事業ごとに異なるべきものですが、「誰が・いつまでに・何を教えるか」を先に決めておくという考え方は、業態を問わず有効だと考えています。

まとめ

定着率が落ちる理由は、評価の不透明さ・成長の見通しのなさ・教える人による差の3つに集約されます。個人店が大手の等級制度をそのまま縮小して持ち込むと、たいてい運用が続きません。まずは、①スキルマップ、②昇給条件の文章化、③振り返り頻度の固定、という最小構成を仕組みとして持ち、育成計画をシフト管理と接続させることを優先してください。点数化の精緻化や大掛かりな評価面談は、個人店の段階では後回しにしてよい取り組みです。


評価・育成の仕組みづくりや、個人店に合った組織設計の優先順位づけについては、FSPの問い合わせページからご相談いただけます。


参照元

※ 本記事で引用した統計は、常用労働者30人以上の企業・事業所を対象とした厚生労働省「令和6年度能力開発基本調査」に基づく参考情報です(数人規模の個人店を直接の対象とした調査ではなく、個人店にそのまま当てはまるとは限りません)。統計・制度は2026年9月時点の公式発表に基づくものであり、運用前に必ず厚生労働省の公式サイトで最新情報をご確認ください。

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