菓子店・カフェのスタッフ採用、最初の1人をどう選ぶか
結論から言うと、最初の1人は「スキルの高さ」で選ぶものではありません。小規模な菓子店・カフェの開業初期には、業務の基準やマニュアルがまだ何も固まっていません。この状態で機能するのは、経験値の高さよりも「決まっていないことに直面したとき、確認しながら自分で判断して動けるか」を持っている人です。そして、この判断をする前に、会社側が先に用意しておくべきものがあります。募集時に明示すべき労働条件の整理と、何を基準に採否を決めるかの言語化です。ここが曖昧なまま選考に入ると、面接の印象だけで採否が決まり、後から「思っていたのと違った」というミスマッチが起きやすくなります。
なぜ「最初の1人」の採用は難しいのか
最初の1人の採用が他の採用と決定的に違うのは、教える先輩がいないことです。OJTの型もまだなく、業務の優先順位も現場で試行錯誤しながら決めていく段階です。つまり最初の1人は、教わる側であると同時に、その後の基準づくりに巻き込まれる側でもあります。ここで「指示待ち」の適性しか持たない人を採用すると、基準が固まるまでの間、現場が回らなくなります。
選ぶ前に、会社側が用意しておくもの
募集時の労働条件明示
労働者を募集する際は、業務内容・契約期間・就業場所・始業終業時刻・賃金などを明示する義務があります(職業安定法第5条の3)。2024年4月の同法施行規則改正で、①従事すべき業務の変更の範囲、②就業場所の変更の範囲、③有期契約の場合は更新上限の有無、が新たに明示事項に追加されました。複数の業務・店舗を任せる可能性がある小規模店では、この「変更の範囲」の明示を求人票の段階で見落としがちなので注意が必要です。
年齢を理由に対象を絞らない
労働施策総合推進法第9条により、事業主は募集・採用において年齢にかかわりなく均等な機会を与える義務を負います。定年制を前提とした募集や、無期雇用かつ職業経験を問わない若年層限定の募集など、限られた例外事由に該当する場合を除き、求人票に年齢の上限・下限を設けることはできません。
何を見て採否を決めるかを先に言語化する
面接の場で初めて評価軸を考えるのではなく、面接評価シートのような形で「何を確認したら採用するか」を事前に固めておくと、面接官の主観だけに頼らない判断ができます。
「最初の1人」で見るべき基準
小規模店の最初の1人に向いているかどうかは、次の3点で見るとよいでしょう。
- 基準がない状態で確認しながら動けるか:マニュアルがまだ無い前提で、分からないことをその都度確認しながら仕事を進められるか。
- 業務範囲の広さに対する適性:小規模店は製造・接客・レジ・清掃など担当業務の幅が広くなりがちです。役割が限定されないことに抵抗がないか。
- 一緒に基準を作っていく姿勢があるか:最初の1人の仕事の仕方は、良くも悪くもその後の基準そのものになります。
試用期間の使い方と、誤解しやすい法的制約
試用期間中は「解雇しやすい」と誤解されがちですが、そうではありません。雇い入れから14日以内であれば解雇予告(30日前予告、または30日分の平均賃金の支払い)が不要になりますが(労働基準法第21条第4号)、この場合も解雇権濫用法理(労働契約法第16条)は適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。14日を超えて雇用を続けた場合は、試用期間中であっても通常の解雇予告手続きが必要です。試用期間は「様子を見て簡単に解雇できる期間」ではなく、「事前に決めた評価基準に沿って、双方が見極める期間」と位置づけたほうが、法的にもトラブルが少なくなります。
労働条件通知書は、正社員と同じ書式では済まない
契約締結時には、書面(電子交付を含む)で労働条件を通知する義務があります。アルバイト・パートなど短時間労働者・有期雇用労働者には、一般的な明示事項に加えて、昇給の有無・退職手当の有無・賞与の有無・雇用管理の改善等に関する相談窓口を明示する義務があります(パートタイム・有期雇用労働法第6条)。正社員用のフォーマットをそのまま使い回すと、この項目が抜け落ちやすいので注意してください。
採用チャネルの選び方
飲食・菓子業界は募集をかけても応募が集まりにくい業種です。ハローワークや一般の求人媒体に加えて、飲食特化の求人・転職サービスを併用すると、業界特有の勤務条件(早朝勤務・立ち仕事・製造現場の環境など)への理解がある応募者に届きやすくなります。手数料体系(成功報酬型か掲載課金型か)と、自店の採用予算・急ぎ度を照らし合わせて選ぶとよいでしょう。
私自身の経験から
Grace(2026年10月開業予定の愛知県のパティスリー)の開業準備では、面接評価シートと、アルバイト・正社員それぞれ別の入社前事前確認フォームを書式として用意しています。
まとめ
最初の1人の採用で優先すべきは、スキルの高さよりも「基準がない状態で確認しながら動ける人」かどうかです。そして、選ぶ前に会社側が済ませておくべき宿題として、募集時の労働条件明示・年齢制限に関する法令順守と、採否の判断基準の言語化があります。試用期間や労働条件通知書の実務も、正社員採用のときの感覚をそのまま持ち込むと抜け漏れが起きやすい部分です。採用と並行して進める開業準備全体のスケジュール感は「開業スケジュールの立て方」もあわせてご覧ください。
採用基準の言語化や、開業初期の人員計画については、FSPの問い合わせページからご相談いただけます。
参照元
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります。」(職業安定法施行規則改正・従事すべき業務の変更の範囲等の追加)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
- 厚生労働省「2024年4月から、労働者の募集や職業紹介事業者への求人の申込みの際、明示しなければならない労働条件が追加されます。」https://www.mhlw.go.jp/content/001114155.pdf
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」労働条件の明示 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/study/roudousya_roudoujouken.html
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「職業紹介事業における募集・採用時の年齢制限の禁止について」(労働施策総合推進法第9条)https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai13/
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「募集・採用時に年齢制限を設ける場合の理由提示の義務化について」https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/dl/leaflet3.pdf
- 厚生労働省 中央労働委員会「試用期間中の解雇」あっせん事例(労働基準法第21条第4号の14日ルール、労働契約法第16条の解雇権濫用法理)https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/dl/jirei09.pdf
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