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バックオフィス・仕組み化

原価管理を後回しにすると起きること

原価管理は、開業直後の忙しさの中では最も後回しにされやすい業務のひとつです。製造・接客・仕入れ対応に追われる中で、「原価はざっくり分かっていれば十分」と考えてしまうのは自然なことです。しかし結論から言うと、原価管理を後回しにした分は消えるわけではなく、値上げのタイミング・資金繰りの相談・利益改善の場面でまとめて跳ね返ってきます。この記事では、原価管理を後回しにすると具体的に何が起きるか、なぜ後回しになりやすいのか、そして最低限これだけは固定しておくべき仕組みを整理します。

原価管理を後回しにすると起きること

起きること具体的な内容
値付けの根拠が持てない「なんとなくこの価格」で売価を決めることになり、値上げの必要性を数字で説明できない
原材料の値上がりに利益減として初めて気づく仕入単価が上がっても売価に反映するタイミングを逃し、月次の利益が薄くなってから原因を探ることになる
廃棄ロスとレシピ変動の原因が切り分けられない原価が悪化したとき、それが廃棄の増加なのか、レシピ変更や仕込み量のブレなのか区別できず、対策を打てない
融資・資金繰り相談で説明できない金融機関や専門家に「原価率がなぜこの水準か」を数字と根拠で説明できず、相談の質が下がる

2026年に入ってからも原材料の値上げは続いており、帝国データバンクの調査では、食品主要195社による2026年1〜7月累計の値上げ品目は5,729品目、年間の平均値上げ率は15%に達しています。同社の別の調査では、2026年上半期の飲食店倒産は473件と過去最多を更新し、食材・光熱費の高騰や人件費上昇を主な要因のひとつに挙げています。値上げが常態化している局面では、仕入単価の変動を放置すること自体が経営リスクになります。

なぜ後回しになるのか

原価管理が後回しになる理由は、経営者の怠慢というより、仕組み上の必然です。開業直後はレシピや仕入先が固まっておらず、「試作段階でコロコロ変わるものを細かく管理しても仕方がない」という判断が働きます。また、原価計算は原材料単価・使用量・歩留まり(仕込みロス)・取れ数(1回の仕込みで何個作れるか)を組み合わせる必要があり、手計算では手間がかかる割に、日々の売上や接客ほど「今すぐやらないと困る」実感が湧きにくいという事情もあります。結果として、原価管理は「余裕ができたらやること」の位置づけのまま、開業後何ヶ月も放置されがちです。

最低限これだけは固定する仕組み

すべてを精緻に管理する必要はありませんが、次の4点は開業初期から固定しておくことをおすすめします。

項目最低限やること
レシピ単位のBOM(原材料構成表)レシピごとに「何をどれだけ使い、1回の仕込みで何個(何カット)取れるか」を台帳化する。取れ数の記録漏れがあると原価が数十倍単位でずれることもある
仕入単価の更新タイミング仕入単価が変わった時点でBOM側も更新する運用を決めておく(月次でまとめて反映、等)
棚卸の頻度原材料・半製品の在庫を定期的に数え、帳簿上の使用量と実際の消費量のズレ(ロス)を把握する
POSの商品別売上との突合商品別の販売数と原価台帳を突き合わせ、原価率が悪化した商品をピンポイントで特定できるようにする

この4点のうち、レシピ単位のBOMが土台になります。BOMが整っていないと、仕入単価が変わっても、どの商品にどれだけ影響するかを追えないためです。会計ソフト・バックオフィス全体の設計については「開業前に決めるべき会計・バックオフィスの仕組み」、POSレジの選び方は「飲食店・菓子店のPOSレジ、選定基準の考え方」もあわせてご覧ください。

やらなくていいことの線引き

一方で、開業初期からすべてをリアルタイムで管理しようとすると、今度は運用が回らなくなります。たとえば、原材料価格の日次変動を逐一追いかけたり、全SKUの原価をミリ単位で毎日再計算したりする必要はありません。まずは「レシピ単位のBOMを台帳として持つ」「仕入単価が変わったら更新する」という土台だけを固定し、月次で原価率を確認する運用に留めるのが現実的です。精緻さより、いつ・誰が・何を更新するかが決まっていることの方が重要です。

私自身の経験から

Grace(2026年10月開業予定の愛知県のパティスリー)の開業準備でも、レシピごとの原材料構成をBOMとして台帳化し、原価計算をコード化された固定ルールで実施する仕組みを構築しました。台帳を作る過程では、「1回の仕込みで何個取れるか」と「そこからさらに何個に切り分けられるか」という2つの数値を取り違え、原価率が実態から大きくずれる計算結果になった、という失敗を実際に経験しています。手計算やその場限りの検算では同じ間違いが繰り返されたため、最終的には除数のルールをコード側に固定し、人が毎回手計算しなくても同じ結果が再現される形に仕組み化しました。原価管理は「一度正しく計算する」ことより、「誰がやっても同じ数字になる仕組みにする」ことの方が重要だと感じています。

まとめ

原価管理を後回しにすると、値付けの根拠が持てない、値上がりに気づくのが遅れる、ロスの原因を切り分けられない、資金繰り相談で説明できない、という4つの帰結が積み重なります。後回しになるのは仕組みが無いことが原因であり、①レシピ単位のBOM、②仕入単価の更新タイミング、③棚卸の頻度、④POSとの突合、の4点さえ最初に固定しておけば、精緻さを追わなくても最低限の原価管理は回ります。すべてを一度に整えようとせず、まずはBOMの台帳化から始めてみてください。


原価管理の仕組み化や、原価率が悪化している商品の見直しについては、FSPの問い合わせページからご相談いただけます。


参照元

  • 帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2026年4月」(2026年3月31日時点調査。4月の値上げ品目2,798品目・月平均値上げ率14%、1〜7月累計5,729品目・年間平均値上げ率15%)https://www.tdb.co.jp/report/economic/neage26y03/
  • 帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2026年上半期)」(2026年上半期倒産473件・前年同期458件から3.3%増・4年連続増加で過去最多更新。食材・光熱費の高騰、人件費上昇等を要因として指摘)https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260722-insyokuten2026fh/

※ 原価管理の手法・数値例は一般的な考え方の紹介であり、特定の業種・規模の店舗にそのまま当てはまるとは限りません。原材料価格の動向は変動するため、実際の仕入判断にあたっては最新の情報をご確認ください。

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